人工授粉の実施時期
開花からの日数が目安
一季成り性品種は、自然条件の下では秋の低温と短日によって花芽形成し、冬を経て春に開花します。実際には促成栽培が主流であり、夏の育苗時に「夜冷短日処理」を行って花芽形成を促し、10月頃から開花させる作型が一般的です。
授粉のタイミング
イチゴの花は雌しべが先に成熟し、そのあとに雄しべが成熟して花粉を放出する雌性先熟です。開花1日目は雄しべから花粉が出ておらず、2日目以降でないと受精できません。
また、開花から5日を過ぎると雄しべ、雌しべともに受精能力が低下し始め、受精できた場合も奇形果の発生確率が高くなる傾向にあります。
したがってイチゴの受粉は開花後2〜4日の間に済ませる必要があります。開花から5日目を迎える頃には花びらが落ち始め、受粉できなくなる恐れがあるので注意してください。
効率の良い授粉
1・温度を15~25℃に保つ。
一般的には25℃がイチゴの花粉発芽に最適な気温とされています。それ以上の温度でも受粉を行うことは可能ですが、35℃以上になると雌しべが枯死し、花粉が損傷してしまいます。また、0℃以下の低温条件においても雌しべが枯死して受粉ができなくなります。
したがって、ハウス内は受粉に適した温度で管理することが重要です。目安としては日中の温度が15〜25℃になるように設定します。
夜間は10℃程度を維持してください。春先に温度が上がり過ぎる場合は、換気や遮光によって適温を確保しましょう。
人工授粉
手作業での授粉には、毛先の柔らかい筆や耳かきのさじの反対側についている梵天、女性用のフェイスブラシなどを使用します。雌しべを傷つける恐れがあるため、硬いものの使用は厳禁です。
それらの先端で花の中心部を円を描くように軽く撫で、すべての雌しべに満遍なく花粉を付着させましょう。
授粉良否の確認
イチゴの受粉が成功したかどうかを判断するには、雌しべの状態を観察します。
受粉が成功した場合、雌しべの土台となっている花托(かたく)と呼ばれる部分が膨らんで果肉となり、雌しべの子房部分が肥大して粒々のそう果(果実)となります。
この時、雌しべの一つひとつがきちんと受粉できていれば、すべての子房が大きくなって果肉がきれいに膨らみます。
うまく受粉できなかった雌しべがある場合、その雌しべの子房は膨らまないため、果肉が部分的に大きくなっていびつな形になってしまいます。これが奇形果ができる原因です。
また、イチゴの雌雄器官の花粉稔性(受精能力)は、品種によって差が大きいことで知られており、栽培地域や作型に応じて花粉稔性が高い品種を試すことも有効です。